「先生、うちの子はもう高校に行けないですよね」。三者面談でそう肩を落とす保護者を前に、返す言葉に迷ったことはないでしょうか。「休みが多かったから仕方ない」と、生徒自身が先に諦めてしまっている場面に出会ったことのある先生も、きっと少なくないはずです。
実は、そう伝えなくてもよくなってきています。ここ数年、欠席日数だけで進路を諦めなくていいように、国の方針が少しずつ、でも確実に変わってきているのです。文部科学省は令和7年6月27日付で「高等学校入学者選抜等における配慮事項等について(通知)」を発出し、欠席日数のみによる不利益な取扱いの見直しや、学校外での学びを評価に反映することなどを、全国の教育委員会に改めて求めました。あわせて令和8年2月13日には、2040年に向けた高校教育改革の方針「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」も公表されています。
この記事では、忙しい毎日の中でも押さえておきたいこの2つの動きのポイントを、できるだけかみ砕いてお伝えします。あわせて、制度が変わってもなお現場に残る課題や、明日からの進路指導にそのまま使える具体的な対応も整理しました。生徒に「大丈夫だよ」と胸を張って伝えるための、ちょっとした後押しになれば嬉しいです。
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📝 この記事でわかること
- 文科省通知(令和7年6月27日付)が示す高校入試の配慮事項3つのポイント
- 「N-E.X.T.ハイスクール構想」が目指す高校教育改革の方向性
- 自己申告書・特別選考枠など、各地で進む具体的な対応例
- 制度が変わっても現場に残る3つの課題
- 明日からの進路指導にそのまま使える、具体的な一歩
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なぜ今、見直しが進んでいるのか|通知とグランドデザインの背景
「制度なんて、そんなに急には変わらないだろう」と思われるかもしれません。でも実際には、高校入試における不登校生徒への配慮は、「学校外の学び」を積極的に評価する方向へ、ここ数年で着実に舵を切ってきています。
令和8年2月13日、文部科学省は「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けたN-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想~」を公表しました。少子化やAIの実装が進む2040年を見据え、多様な背景を持つ生徒の特性や、中学校までの多様な経験を生かした学びの成果を評価する、多面的な入学者選抜への改善が求められています。
この方針を受けて、学校という限られた場での学習・活動成果だけでなく、多種多様な場での学習や活動の成果、高校で学ぶ意欲やポテンシャルを重視した評価の仕組みへのシフトが、これまで以上に全国的に進むことが期待されています(参考:文部科学省「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)」)。
この流れに先立って、文科省は令和7年6月27日付で「高等学校入学者選抜等における配慮事項等について(通知)」(7文科初第836号)を発出しています。この通知は令和6年6月25日付の同種の通知を廃止して改めて発出されたもので、例年6月頃に内容が更新される、いわば「毎年の入試シーズン前に届く実務指針」です。日々の業務に追われがちですが、今年度以降の入試広報や自己申告書の運用にあたっては、一度目を通しておきたい内容です。
文科省通知のポイント3つ|欠席日数・多面的評価・志願しやすさ
通知の中身は専門用語も多く読み解くのが大変ですが、伝えたいことはシンプルです。「欠席日数だけで不利にしない」「学校外の学びも評価する」「出願しやすくする」、この3つに集約されます。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ①欠席日数のみによる不利益取扱いの見直し | 在籍校の出席状況のみをもって、出願自体を制限するなどの不利益な取扱いをしないこと |
| ②学校外での学習成果の多面的評価 | 生徒本人の自己申告書や、教育支援センター・フリースクール・自宅でのオンライン学習など、学校以外の場における学習状況に係る資料を、選抜において適切に勘案すること |
| ③志願しやすい環境づくり | 不登校の生徒が志願しやすいよう、募集時の内容を工夫するなどの配慮を行うこと |
参考:文部科学省「高等学校入学者選抜等における配慮事項等について(通知)」(令和7年6月27日付)
通知には「入学志願者やその保護者、入学者の在籍する中学校や小学校等に対しても、広く周知されることが望ましい」とも明記されています。教育委員会や高校だけの話ではなく、進路指導にあたる中学校の私たちにも、この内容を理解し、生徒・保護者にきちんと伝えていく役割があるということです。
各地で進む具体的な対応例
「言葉ではわかったけれど、実際に何が変わったの?」と感じる先生も多いと思います。通知の趣旨を受けて、すでに各地の自治体や学校で、具体的な運用の工夫が動き始めています。
欠席が多くなった理由や、学校外(フリースクールや自宅など)でどのように前向きに学習に取り組んできたかを生徒自身が記入し、調査書(内申書)の欠席日数を補う材料として評価に加える運用です。
一律の学力検査や調査書の評定(内申点)だけでなく、面接や作文、実技などを重視して合否を判定する特別な枠組みを設ける高校が増えています。
「3年間のうち最も状態が良かった学年の評定を評価する」「不登校期間の評定は斜線(評価なし)とし、当日の学力試験や面接の結果をより重くみる」といった緩和措置をとる自治体もあります。
不登校経験を持つ生徒を積極的に受け入れる、柔軟なカリキュラムを持つ公立高校(いわゆるチャレンジスクールや昼夜間定時制など)において、志願しやすい選考方法がさらに工夫されています。
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都道府県・学校によって取り組み状況にはまだ差があります。進路指導の際は、必ず志望校の最新の募集要項を確認し、自己申告書等が使えるかどうかを個別に確認しておくと安心です。
制度が変わっても残る3つの課題
ここまで読んで「良い流れだな」と思う一方で、現場感覚として「そう簡単には解決しないよな」とも感じるのではないでしょうか。実際、「学校外の学びをどう保障し、どう公平に評価し、進学後どう支えるか」という3つの課題は、まだ残っています。
①「学校外の学び」をどう十分に保障するか
教育支援センターやフリースクール等の民間施設が十分に整備され、生徒が自分に合った学びの場を選べる状態にあるかどうかは、正直なところ地域によって差があります。また、そうした場が「安心できる居場所」にとどまっている場合、入試でアピールできるだけの学習・活動実績を積むこと自体が難しいという悩みもあります。
②「学校外の学び」をどう公平に評価するか
フリースクールや自宅でのオンライン学習の成果を、所属中学校や各自治体がどう評価するかという基準には、まだばらつきがあります。受け入れる高校側が、多様な学校外の学びを客観的かつ公平にどう数値化し、評価するのかという基準づくりも、これからの課題です。
③高校進学後のサポート体制が十分に整備できるか
せっかく配慮によって入学できても、中学校までの学び残しがあった場合、高校での学習に十分ついていけるだけの個別支援があるかどうかも気になるところです。特に全日制高校は単位取得のための出席時数規定があり、出席に関する環境が厳しくなりがちなため、進学先の先生の理解と支援が欠かせません。
今回の通知やグランドデザインは、大きな一歩であることは間違いありません。ただ、高校進学前・進学後の現場での理解が追いつかなければ、絵に描いた餅で終わってしまいます。制度を知ってもらうことと、現場での運用・支援体制づくりは、どちらも欠かせない両輪です。
中学校教員が進路指導で今からできること
制度の話が続きましたが、ここからは明日からの実践編です。中学校教員にできることは、「制度を知り、記録を残し、早めに情報提供する」という、実はとてもシンプルな3つに整理できます。
- 志望する可能性のある高校の募集要項で、自己申告書や特別選考枠の有無を早めに確認する
- 生徒がフリースクール・教育支援センター・自宅オンライン学習などで取り組んできた学習内容や活動を、日頃から記録・把握しておく
- 出席扱い制度(学校外での学習を指導要録上の出席として扱う制度)の活用状況を整理し、調査書に反映できる形にしておく
- 自己申告書の作成にあたっては、生徒本人が「頑張ってきたこと」を言葉にする作業を、面談などを通じて支援する
- 進路面談では「欠席日数だけで不利になるとは限らない」という最新の制度を、生徒・保護者に具体的に伝える
- 進学先の高校とも早めに情報共有し、入学後の支援体制について確認しておく
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何より大切なのは、「出席日数が少ない=不利」という思い込みを、まず私たち教員自身がアップデートすることかもしれません。古い前提のまま進路指導をしてしまうと、本来なら挑戦できる選択肢を生徒や保護者に伝えられないまま、進路の幅を狭めてしまうことになります。
保護者・生徒への伝え方
保護者や生徒には、「欠席日数だけで諦めなくていい」ということを、具体的な準備とセットで伝えてあげると、不安が少し軽くなります。
伝え方の工夫
「文部科学省の通知で、欠席日数だけで不利に扱わないことになっているんです」という制度の話だけで終わらせず、「だから、フリースクールでの取り組みや家庭学習の様子を、自己申告書としてきちんと形に残していきましょう」というように、次の一歩につながる形で伝えてみてください。制度を知っているだけの安心感が、具体的な準備行動に変わっていきます。
よくある質問
すべての高校で自己申告書や特別選考枠が使えるのですか?
いいえ、自治体・高校によって対応状況には差があります。文科省通知は全国の教育委員会等に対応を求めるものですが、具体的な運用は各高校の募集要項によって異なるため、志望校ごとに最新の要項を確認する必要があります。
フリースクールでの学習は、本当に評価に反映されるのですか?
通知では「学校以外の場(家庭におけるオンライン学習を含む。)における学習状況に係る資料等を選抜において適切に勘案する」ことが求められています。ただし、どの程度・どのような形で反映するかは実施者(教育委員会・高校)の判断によるため、事前に確認しておくことが望ましいです。
出席扱い制度と、今回の通知はどう関係しますか?
出席扱い制度は、フリースクールや自宅学習など学校外での学びを指導要録上の「出席」として扱える制度です。この記録が整っていると、自己申告書や調査書を通じて、高校入試の際の資料としても活用しやすくなります。日頃からの記録の積み重ねが重要です。
まとめ|制度の周知と現場の理解、両輪で進める
令和7年6月27日付の文科省通知と、令和8年2月13日公表の「N-E.X.T.ハイスクール構想」は、不登校経験のある生徒の高校進学における実質的な壁を取り除こうとする、はっきりとした国の意志の表れです。欠席日数だけで不利益な扱いをしないこと、学校外での学びを多面的に評価すること、志願しやすい環境をつくること。この3点が、その柱になっています。
もちろん、学校外の学びの保障、公平な評価基準づくり、進学後のサポート体制の整備という課題は、制度が変わっただけでは解決しません。それでも、私たち中学校教員が最新の制度を知り、生徒の学校外での学びを日頃から記録し、自己申告書の作成にそっと寄り添い、早めに情報を届けていくこと。その地道な積み重ねこそが、目の前の生徒一人ひとりの進路の選択肢を、実質的に広げていきます。「もう無理かもしれない」ではなく、「まだ道はある」と伝えられる先生でいたいものですね。

